🐾 猫が語る、日常の小さな幸せ

🐾 猫が語る、日常の小さな幸せ⑥

第6回 風の匂いで季節を知る

吾輩は猫である。名はキキ猫。
ヒトは暦を見て季節を知る。
だが吾輩たちは、鼻で季節を感じ取るのだ。

窓が少しだけ開いている日。
風がふわりと部屋に流れ込む瞬間、吾輩はその匂いをひと吸いする。
草の香り、花の気配、土の湿り、陽のあたたかさ。
それぞれが絶妙に混ざり合って、「ああ、今日は春の入口だにゃ」と分かるのだ。

たとえば春。
風には少しだけ花粉のような、粉っぽい甘さがある。
新芽の息吹が空気に乗り、吾輩のヒゲがぴくりと反応する。

夏はどうか。
風は熱を含み、どこか陽炎の匂いがする。
どこか遠くのセミの声も、一緒に運ばれてくる。

秋の風は、冷たいのではない。
少し乾いていて、かすかに木の実と落ち葉の香りがする。
夕暮れが早くなるのを、吾輩の鼻は知っているのだ。

そして冬。
空気は澄んでいても、匂いは薄くなる。
ただ、誰かが鍋をするにおい、ストーブのぬくもり、毛布の柔らかさが部屋に戻ってくる。

ヒトは「匂い」をあまり大事にしない。
だが吾輩にとって、風の匂いこそが、最も確かな季節の知らせなのだ。

そして今日の風は――
少し湿り気を含んだ、桜の予感のする風。
うむ、春はもうすぐそこに来ておる。


🍃 キキ猫の小さな哲学

「季節はカレンダーでなく、風のにおいで知るにゃ。鼻で感じる暮らしは、意外と正確なのだ。」