🐾 猫が語る、日常の小さな幸せ

🐾 猫が語る、日常の小さな幸せ⑩

第10回 梅雨の午後、しずくが奏でる子守唄

吾輩は猫である。名はキキ猫。
梅雨という季節、ヒトには不評らしい。
「じめじめする」「洗濯物が乾かない」「外に出られない」と、主(あるじ)も少し憂鬱そうである。

だが吾輩にとって、梅雨の午後ほど、眠りにふさわしい時間はない。

曇り空は、日差しをやわらかく濾過し、
窓の外では、雨粒たちがリズムを刻んでいる。
ポトン… トン… サラサラ…。
まるで即興のオーケストラにゃ。

しずくの音は、決して単調ではない。
窓枠にあたる音、葉を伝う音、屋根に弾ける音――
それらが重なり合い、やがて静かな子守唄になるのだ。

吾輩は、ソファの隅に丸くなって耳を澄ます。
風が吹けば、木々が揺れ、その合間に鳥がひと声鳴く。
そのすべてが、“今この瞬間だけ”の音楽として響いている。

主はホットティーを淹れ、本を読んでいる。
ときどき、ページをめくる音。
カップがソーサーに触れる音。
それさえも、この午後の調べの一部だ。

そして、吾輩のまぶたは、自然と重くなる。
静かに、やさしく、穏やかに。
まるで世界全体が、眠りへと誘ってくれているようだ。


☔ キキ猫の小さな哲学

「雨はにゃ、“濡れるもの”ではなく、“包まれるもの”にゃ。しずくの音は、世界がくれる子守唄にゃ。」