第8回 夜の静寂とヒトの寝息
吾輩は猫である。名はキキ猫。
夜というのは、不思議な時間だ。
ヒトは「おやすみ」と言って部屋を暗くし、
まるで世界が終わるかのように眠りにつく。
だが、吾輩にとっての夜は、始まりでもあり、観察の時間でもあるのだ。
蛍光灯が落ち、静けさがふわりと降りてくる。
窓の外では虫の声。遠くでバイクの音。
だが、部屋の中にはただ――主(あるじ)の“寝息”がある。
すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……。
一定のリズム。温かな吐息。
それを耳にすると、吾輩の心もふと、落ち着くのだ。
主が起きているときは、何かと慌ただしい。
言葉が飛び交い、物音がして、画面が光り、笑ったり怒ったりもする。
だが眠っている主は、まるで別人のように、穏やかで無防備だ。
吾輩はその枕元に丸まり、ときに見守り、ときに添い寝する。
寝息はまるで、「今日も一緒にいられてありがとう」と伝える合図のように思える。
時折、主が寝言をつぶやくことがある。
はっきりとは聞き取れぬが、なんだか幸せそうで、吾輩もまぶたが重くなる。
静かな夜。
それは“何も起きない”のではなく、
“何も起こさなくてよい”という、安心の時間なのである。
🌙 キキ猫の小さな哲学
「寝息はにゃ、ヒトの心のやわらかい部分。夜はそこに耳をすませる時間にゃ。」