第3回 猫の午後、主の気配
吾輩は猫である。名はキキ猫。
午後という時間帯は、猫にとってなかなかの贅沢なのだ。
陽ざしが少し傾きはじめ、窓辺の光もどこか柔らかい。
午前中の動きが一段落し、世の中がふっと静まり返る。
そんなとき、吾輩はお気に入りのクッションの上で、半分眠り、半分目を開けている。
だが、この静けさの中に、ひとつだけ確かな“音”がある。
それは、主(あるじ)の気配である。
部屋の奥でカタカタと響くキーボードの音。
ときおり湯を沸かすケトルの小さな笛。
電話の受話器越しに漏れる笑い声。
それらがすべて、吾輩の耳には「安心」という名の子守唄に聞こえる。
ヒトはよく言う、「猫は気まま」と。
確かにそうかもしれぬ。
だが、吾輩たちは“気配”に寄り添って生きているのだ。
主がいる、ここにいる。
それが分かるだけで、吾輩は深く眠れる。
それだけで、午後という時間は、最高の贅沢になるのである。
そして、ふと目を覚ませば、主がこちらを見ている。
にっこりと笑って「よく寝てるね」と言ってくれる。
吾輩は、ゆっくりとまばたきを返す。
それが、吾輩なりの「今日もありがとう」のしるし。
☕ キキ猫の小さな哲学
「ヒトのそばにいるだけで、幸せになれるにゃ。音ではなく、気配こそが“ぬくもり”にゃ。」